【作品について】
安政元年(一八五四年)長州、萩。「野山獄」にひとりの男が護送されてきた。生きて出られた者は誰一人いないこの牢獄に、希望を与え、その後の日本を切り拓いた男。彼の名は、吉田寅次郎。“幕末”は、この男からはじまった。
幕末―新しい世に突き進む激動の時代。
約260年の太平を築いた江戸幕府の終焉は、1853年の黒船来航から始まる。変革への大きな役割は、長州・薩摩・土佐などの雄藩と呼ばれる地方の勢力が担った。中でも長州。萩に藩庁を置くこの藩からは、伊藤博文、山縣有朋、木戸孝允、品川弥二郎ら維新政府の指導者を数多く輩出し、その後も脈々と、国家の礎となるスケールの大きな人物を生み出した。
何故、一時期にこんなにも優秀な人材が長州藩から生まれたのか?その答えは、一人の男の存在を抜きには語りえない。その男の名は、吉田松陰。藩の兵学師範の家筋に生まれ、10歳の時に藩主毛利敬親の御前講義を務めた俊英。私塾「松下村塾」を開き、多くの才能を見出し育んだ稀代の思想家、教育者。国を思い、故郷を思い、人を思ったこの偉人は、その思いも半ば、安政の大獄によって刑に処され、わずか30歳でその生涯を終える。
本作では、その短い生涯の中の一場面、藩の牢獄「野山獄」に収監されていた頃の日々を、同じく時代が故の罪状で収監されていた女囚、高須久の目を通して描かれる。海外渡航を企てるという途方もない大罪を犯し、故郷の獄へ送られてきた彼は、それでも自らの理想を信じ、日々を無為にするのではなく、学び精進し、人と関わり続けた。
「我らは皆、磨けば光る原石であります」
「大切なのは、あなたが今何をしているか、これから何をするのかが大事なのであって、過去にあるものではありませんよ」
その姿は、長く囚われの身となり希望を失った獄中の人々の、凝り固まった心を少しずつ溶かしていく。それはあたかも、野山獄の片隅で可憐な花を匂わせる樗(おうち:栴檀(せんだん)の古名)のごとく、であった。
清廉で一途で、常に人を愛して止まなかった吉田松陰。生涯、独身を貫きその思想に殉じた彼の秘史、久とのただ唯一の恋慕の情景は、淡きがゆえ美しく、儚きがゆえ力強く、観る者の胸を強く揺さぶる。
主人公:高須久を演じるのは、注目の新進女優、近衛はな。父に目黒祐樹、母に江夏夕子、叔父に松方弘樹を持つ芸能一家に生まれ、脚本家としてはNHKドラマスペシャル「白洲次郎」シリーズを手がけるなど多彩な活躍を見せる彼女は、本作が映画初主演。また本作では、父、目黒祐樹との初共演も果たしている。
吉田松陰を演じるのは、男優のみで構成され「トーマの心臓」「ベニスに死す」等の演目で絶大な人気を誇る劇団スタジオライフの前田倫良。前作『長州ファイブ』での遠藤謹助役に続いて、故郷の英雄という大役を演じる。そのほか、神山繁、赤座美代子、池内万作、勝村政信、本田博太郎ら経験豊富な名優陣が脇を固める。
原作は、下関出身の直木賞受賞作家古川薫の「野山獄相聞抄(改題:吉田松陰の恋)」(文藝春秋社刊)。2009年6月、監督は、映画『必殺始末人』(97)『必殺!三味線屋・勇次』(99)やTVシリーズ「必殺仕事人2007」「必殺仕事人2009」、「鬼平犯科帳」、「剣客商売」などの石原興(しげる)。『長州ファイブ』(06)のグローカル・ピクチャーズ製作第2弾作品。
上映時間:1時間34分
公開年:2010年/製作国:日本/上映時間:1時間34分
配給:Thanks Lab
製作:グロ−カル・ピクチャ―ズ/「獄に咲く花」製作委員会/松竹京都撮影所
助成:文化芸術振興費補助金
映画原作本
【吉田松陰の恋 (野山獄相聞抄)】
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